医療法人の形態について教えてほしい

医療法人税制

Q.平成15年のことだ。私の個人資産のうち、1.000万円を出資し、個人で経営していた整形外科医院を医療法人にした。
 先日、私は理事長を辞任し理事となり、新しく他の理事が理事長に選任された。私は出資した1.000万円の返還を新しい理事長に求めたが、未だに1.000万円は私のもとへ戻ってこない。「それには応えられない」と断られてしまった。私はどうすればよいのだろうか。
<回答>
 理事長を辞任するだけでは出資金は戻って来ない。平成15年設立の医療法人は、新法施行以前の医療法人の形態を採用しているからだ。
1)平成19年4月以降の医療法人の形態には、「旧法の下に作られた経過措置型医療法人」と「新法の下成立した医療法人」の2つがある。平成15年に医療法人を成立しているこの事例の場合は、旧法により設立された医療法人ということになる。
2)理事長を辞任するだけでは、旧法の下に作られた経過措置型医療法人の出資金は返ってこない。
3)今すぐに出資した1.000万円の自己資金の返還がどうしても必要な場合は、医療法人の理事を辞し、更に退社もすることで返還が可能となる。
 平成19年4月以降に存続している医療法人の形態には、「新法の下で設立できる医療法人」と「旧法の下に作られた経過措置型医療法人」の2つがある。
新法の下で設立できる医療法人
1社会医療法人
 公益性の高い地域医療の中核を担う存在と位置づけられる医療法人。医療法の要件を満たし、都道府県知事の認定を受ける。この形態の医療法人は、病院等の本来業務から発生する法人税が非課税となることなど、税制上の優遇措置を受けることが可能である。
2特定医療法人
 法人税の軽減税率適用等、税制上の優遇措置を受けることができる医療法人。租税特別措置法により規定される。
3基金拠出型医療法人
 「出資持分のない医療法人」の一類型として、新規に平成19年施行の第五次医療法改正で、導入された。現在、多くの医療法人が法人設立の際、この基金制度を採用している(基金制度を採用しないことも可能)。徹底的に非営利性を追及するため、解散時の残余財産の帰属先を国等から選定しなければならない。
経過措置型医療法人
※旧医療法の下存在していた医療法人。平成19年4月以降その設立ができなくなった。経過措置として当分の間は存続することができるとされている。
1出資額限度法人
 「払込出資額」が“退社時の持分払戻請求権”と“解散時の残余財産分配請求権”の範囲となっている法人で、新法施行後も「当分の間」その形態を存続させることができる。形態が新法の基金拠出型医療法人に似ている。
2持分の定めのある医療法人
 旧法の下では、ほぼすべての医療法人がこの形態を採用し法人を設立していた。“退社時の持分払戻請求権”と“解散時の残余財産分配請求権”(いわゆる財産権に関する事項)については、新法適用後も当分の間はその効力を有することが定められている。
3「経過措置」の及ぶ範囲
 定款または寄附行為に解散に関する規定を、医療法人は定めることが必要となっている。
 平成19年4月以降は更に、この定款または寄附行為に「解散時の残余財産が出資者に帰属できない」ことも必要となった。
 ただし、経過措置型医療法人については当分の間、定款の変更は強制ではなく、出資者に残余財産が帰属する取扱いが認められることとなった。平成19年3月以前から存続する、持分の定めのある医療法人にこの改正を強制すると、法人の出資者の財産権を侵害するおそれがあるからである。
 ただし、経過措置は、出資者に帰属する財産権についてのみその範囲が及ぶのであり、それ以外の取り扱いについてはすべて、経過措置型医療法人も同様に改正医療法の適用を受けることになる。
4出資者に帰属する財産権
 経過措置型医療法人は改正前の形式の定款に基づき、医療法人に出資者の財産権が保証されている。この財産権は具体的には、退社時の持分の払戻請求権と解散時の残余財産配分請求権の2つであり、これを保証している。
<参考>持分の定めのある社団医療法人の旧モデル定款
第9条 社員資格を喪失した者は、その出資額に応じて払戻しを請求することができる。
第34条 本社団が解散した場合の残余財産は、払込済出資額に応じて分配するものとする。
払戻請求権が行使できるのは、このように退社時または解散時のみに限定される。注意が必要なのは、理事長を辞任するだけでは、払戻請求権を行使することができない点である。
 理事長・理事を辞任するだけでなく、社員を辞めることが、出資金の払戻を得るには必要となるので注意が必要。